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自民党による「学校教育における政治的中立性についての実態調査」に抗議し、
調査結果の廃棄を求める声明
 2015年6月17日、公職選挙法等の一部を改正する法律が制定され、選挙権が20歳以上から18歳以上へ引き下げられた。それに伴い、今般、学校教育における政治教育のあり方が重要な問題として浮上している。

  こうした中で、2016年6月25日、自民党は、同党のホームページ上に「学校教育における政治的中立性についての実態調査」(以下「実態調査」という)を掲載した。実態調査においては「『教育の政治的中立はありえない』と主張し中立性を逸脱した教育を行う先生方がいることも事実です。学校現場における主権者教育が重要な意味を持つ中、偏向した教育が行われることで、生徒の多面的多角的な視点を失わせてしまう恐れがあり、高校等で行われる模擬投票等で意図的に政治色の強い偏向教育を行うことで、特定のイデオロギーに染まった結論が導き出されることをわが党は危惧しております」などとされ、「政治的中立を逸脱するような不適切な事例をいつ、どこで、だれが、何を、どのように行ったかについて具体的に記入」するよう求めている。当初は、政治的中立性を逸脱するものとして、「子どもたちを戦場に送るな」との主張や、「安保関連法は廃止すべき」との主張も挙げられていたようであるが、後に削除された。

  そして、同年7月18日に自民党は実態調査を突然終了し、このホームページを閉鎖した。自民党文部科学部会は、実態調査について「相当数集まり、傾向も出てきた」とし、今後参考資料として活用するとしている。

  かかる実態調査は、政権党が他人からの密告による方法によって教育活動を監視することにほかならず、以下のとおり、生徒の政治教育を受ける権利を侵害するものであり憲法13条及び26条に反するとともに、学校教員の教育活動を萎縮させるものであり憲法19条、21条にも反する。

 すべての国民は、自律的に自己の生き方を決め、民主政に対する批判力を養う権利を当然に有する。とりわけ、子どもは人格及び能力を最大限に発達させ開花させるための学習権を保障されている(子どもの権利条約6条、29条1項)。

  学校教育において、政治的な教養を十分に身に着けることこそ民主主義の実現に不可欠であることから、教育基本法も14条1項において「良識のある公民として必要な政治的教養は、教育上尊重されなければならない」とし、政治教育の尊重を定めているのである。

 かかる子どもの学習権を保障するためには、子どもと身近に接する教員に思想良心の自由(憲法19条)、教育活動の自由(憲法21条)を広く認める必要があるのであって、政治が教育に不当に介入することこそ防ぐ必要がある。特に、戦前・戦中に絶対主義的天皇制のもとで、全体主義的教育が行われ、子どもを含め国民の権利が抑圧された苦い経験を持つ日本ではこのことが極めて重要な意味を有する。

  したがって、教育における「政治的中立性」については国家権力からの政治教育の自由こそが重要である。教員による教育内容については、特定の思想・信条を押し付けるような政治教育をすることについてのみ規制を及ぼせば足りるのであって、現に教育基本法も「特定の政党を支持し、又はこれに反対するための政治教育その他の政治的活動をしてはならない」と規定するにとどめている(14条2項)。

 今回の実態調査は、国家権力に極めて近い政権党が積極的に教員の政治的中立性の「逸脱」について報告を求めるものであるが、これは政権党による「調査」に名を借りた「密告」の奨励にほかならず、教員の教育活動に対する監視そのものである。監視を受けた教員は、自己の教育活動が政権党に曝されることをおそれ、政治的中立性に少しでも疑いをかけられるような教育内容を自制し、結果として政治教育そのものを自制することにつながりかねない。これは、政権党によって教員の政治教育が萎縮させられていることにほかならない。

  教育における政治的中立性は、生徒が政治的教養を十分に身に着けるために要請されるものであるにもかかわらず、教員が政権党や国家権力に従属することで、その教員から教育を受ける生徒が政治に対する認識や批判力を十分に涵養できないことは、深刻な矛盾である。

 報道によれば、「戦場に送るな、なんて当たり前」「もはや戦争反対が偏向教育になったのか」などの反対意見が、自民党に対して多数寄せられたという。前述のとおり、自民党は当該ホームページを削除したが、これにより「密告」を奨励した政権党の姿勢が許されるわけではない。

  憲法を擁護し、基本的人権、民主主義を尊重するために活動する私たち青年法律家協会弁護士学者合同部会は、自民党による実態調査に抗議するとともに、「密告」により収集した調査情報の即時廃棄を強く求める。
2016年7月29日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
 議 長  原   和 良
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