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「デジタル監視法案」(デジタル化関連法案)について、
プライバシー保護の観点から慎重審議と問題個所の撤回・修正を求める意見書
(要約版)
2021年3月6日
 デジタル監視法案に反対する法律家ネットワーク
連絡先 日本民主法律家協会TEL03‐5367‐5430
第1 「デジタル監視法案」の全体像
 政府は、流通するデータの多様化・大容量化が進展し、データの活用が不可欠であることなどを理由として、「デジタル改革関連法案」として6法案を2月9日閣議決定し、国会に提出した。
 「デジタル監視法案」は、内閣総理大臣を長とする強力な総合調整機能(勧告権等)を有するデジタル庁を設置する、個人情報関係3法を一本化するとともに、地方公共団体の個人情報保護制度も統一化した上で国が管理を強化する、マイナンバーカードをさらに推進する、転職時における使用者間での労働者の特定個人情報の提供を可能とする、国家資格をマイナンバーに紐づけ管理する、マイナンバーと預貯金口座を紐づけて管理することができるようにすることなどがその内容とされている。内閣総理大臣を長とするデジタル庁は、内閣情報調査室とも密接な関係を持つことが予想される。そうなれば、デジタル庁が集約した情報は、官邸・内閣情報調査室を介して警察庁・各都道府県警察と共有される可能性が否定できない。
 「デジタル改革関連法案」は、ひとにぎりの便利さと引き換えに市民のプライバシーを政府に売り渡すに等しく、まさに「デジタル監視法案」と呼ぶにふさわしい危険な法案である。

第2 法案の問題点と法案に欠けている制度
1 プライバシー保護・個人情報保護の要請に逆行するものであること
 プライバシー権は、個人の尊重(憲法13条)にとって不可欠な私的領域における人格的自律を実現するとともに、表現の自由(憲法21条)の不可欠な前提条件となっており、立憲民主主義の維持・発展にも寄与する極めて重要な人権である。そのため、公権力により監視対象とされる個人の私的情報は必要最小限度とし、公権力が私的情報を収集、検索、分析、利用するための法的権限と行使方法等を厳格に定めた法制度を構築すべきである。EU一般データ保護規則(GDPR)においてもデータ主体である個人の権利を基本的な権利として位置づけ、データ主体の権利を定めているように、高度に情報が流通する現代社会においては、データ主体の権利を明確に定めることが必要である。
 しかし、デジタル監視法案は、検討過程で個人の同意を不要とする「データ共同 利用権」なるものが提案されていたことからもわかるように、その狙いは、個人情報の「利活用」であり、データ主体の権利の保障が著しく後退する危険性がある。のみならず、個人情報保護法制定時のセンシティブ情報の取得・保有・提供を厳格に制限する旨の付帯決議がなされているにもかかわらず、マイナンバーと多様な個人情報の紐づけが企図されており、行政によって個人情報が一元的に管理される監視社会となるリスクが非常に高いといえる。

2 個別の問題点
(1) 従業員の転職時等における使用者間での特定個人情報の提供
 デジタル監視法案は、経団連の要望を受け、労働者の同意のもと、特定個人情報(マイナンバーを含む個人情報)を使用者間で提供することを可能とするとしている。転職時等において、労働者が提供を拒絶することは実質的に不可能である。マイナンバーに個人の多様なセンシティブ情報が紐づけされていく中で、番号法を改正して使用者間でのやり取りを可能とする改正案は、給与情報、健康状態などの個人情報が容易に使用者間でやり取りできる端緒を開きかねない危険がある。
(2) 国家資格のマイナンバー登録義務付け
 デジタル監視法案は、税・社会保障・災害等に係る32の国家資格について、マイナンバーを用いて管理することを規定している。かかる国家資格の管理は、有事の際に活用され、動員されることが意図されているものと考えられる。
(3) 地方自治体による分権的個人情報保護システムが無に帰す可能性がある
 デジタル監視法案は、国と地方公共団体の分権的な個人情報保護制度を改変し、 国による統一的な規制を行うものとしている。しかし、かかる方針は、先進的な地方公共団体が国に先んじて個人情報保護制度を構築してきた歴史的背景に反し、また、当該地方公共団体における住民との合意による個人情報保護制度を破壊するもので、地方自治の本旨に反する恐れがある。
 また、行政の外部委託が進む昨今では、個人情報漏洩のリスクが高く、また、統一化されたシステムは外部からの攻撃にも脆弱である上、個人情報が統合されていれば、漏洩時の被害も甚大なものとなる。デジタル化に頼るのではなく、人員拡充など直面する課題の解決を優先すべきである。

3 特定商取引法の改正
 デジタル改革関連6法案には含まれないものの、消費者庁は、訪問販売等や預託等取引契約について、消費者の承諾を要件として契約書面や概要書面の交付を電子化することを認める法案を準備している。かかる電子化は、慎重な判断を促す特商法等の消費者保護法制の趣旨に反するといえ、少なくとも電子化はオンライン取引に限定し、具体的な消費者保護策を講じるべきである。

4 政府から独立した監督機関 
 デジタル監視法案は、政府による警察を介した国民監視を許容する危険性がある上、個人情報保護の措置が著しく欠けている。さらに、特定秘密保護法により、個人情報の収集も特定秘密とされれば、市民に対する違法なプライバシー侵害が横行する危険性がある。諸外国においては、強力な権限を有し、政府から独立した監督機関が設けられており、特定秘密の公開、政府の不適切な個人情報の収集などを是正するシステムが整備されている。デジタル監視法案においては、個人情報保護委員会が一元的に監督するものとされているが、不十分と言わざるを得ない。個人情報保護委員会の政府からの独立性を確保し、その権限を強化することが必要不可欠である。
 また、デジタル庁が集約した情報を、内閣情報調査室等を介して警察庁や各都道府県警が共有するようなことは許されず、これを抑制するシステムが必要である。そのためには、個人情報保護委員会とは別個独立した第三者機関による情報機関(公安警察や自衛隊情報保全体等)に対する監督(職権による調査及び是正の命令等)が必要である。

第3 まとめ
 以上のとおり、デジタル監視法案は個人の尊厳にとって不可欠のプライバシー権に対する重大な侵害の恐れがあり、国家による市民のデジタル監視を可能とし民主制の基盤を切り崩す危険がある。国会による慎重な審議が不可欠であり、法案に対する抜本的な修正がなされない限り、廃案にすべきである。
 以上
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