律家会弁護士学者合同部会
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法律に基づいた震災対策の徹底を求めるとともに、
震災に耐えることのできない原発から訣別し、
脱原発政策への転換を求める決議
1 能登半島地震の発生
 2024年(令和6年)1月1日、マグニチュード7.6、最大震度7を観測する令和6年能登半島地震が発生した。この地震とそれに伴う建物の倒壊、津波、火災等により、甚大な被害が生じた。石川県内の震災による死者は241人、避難者は1万1735人(2月26日午後2時時点)に上っている。
 震災により亡くなられた方々のご冥福を祈るとともに、被災された住民に心からお見舞いを申し上げる。また、今もなお厳しい環境におかれている被災者への救援、水道・電気や道路などのインフラの復旧などが進められ、被災地が一日でも早く復興することを願う。

2 初動対応の遅れと法律に基づく制度の不備
 今回の震災においては、地震発生後、救助を求める被災者の下への救援隊の到着まで多くの時間を要した、すなわち、初動対応の遅れがあったとの指摘がなされている。
 政府は、地震発生直後、災害対策基本法に基づく態勢としては最も下のクラスの「特定災害対策本部」の設置にとどめていた。これを「非常災害対策本部」に格上げし、同本部の会議を初めて開催したのは地震発生の翌日である、1月2日の午前9時過ぎのことであった。初動対応が遅れた結果、自衛隊投入の規模も小規模かつ小出しになっていた。
 また、国の防災基本計画には、災害発生時に本格的に道路が復旧する前の段階で、緊急車両などを通行させるため、最低限のがれきや土砂の処理で救援ルートを設けるという、「道路啓開計画」を国や県などの道路管理者が立案すると定められていた。
 しかしながら、1月24日の参院予算委員会で、斉藤鉄夫国土交通相は「首都直下地震や南海トラフ巨大地震などが想定されるところでは計画を策定してきたが、北陸地整管内は対象となる災害が想定されておらず、内部での検討にとどまっていた」と答えた。昨年4月には、総務省行政評価局が国交省に計画づくりを進めるように勧告していたにもかかわらず、北陸地方においては、計画が手つかずになっていたのである。そのため、地震により寸断された道路網の啓開は遅れ、救援部隊や物資の到着が遅れることとなった。
 さらに、災害救助法の規程に基づけば、避難所の開設は原則1週間、応急仮設住宅は本来、20日以内に着工しなければならないこととなっている。しかし実際には、いずれも着工が遅れており、仮設住宅については1〜2カ月遅れでの着工という事態が生じている。さらに、災害救助法では、被災者への「炊き出しその他による食品の給与」が定められているが、今回の地震では、一部の2次避難所で食事の費用を徴収している例があるとの法律違反が指摘されている。
 このように、政府は、災害救助法や、防災基本計画によって定められた内容を実施せず、初動対応に失敗したことにより、今回の震災による被害を拡大ないし深刻化させた。

3 安易な緊急事態条項創設論への抗議
 東日本大震災以降、「現行憲法においては緊急事態条項がないため、災害時に被災地における救助活動を行うために私権を制限することが出来ず、救われなかった命があった。災害救助のためには緊急事態条項が必要である」などの言説が多くなされた。今回の能登半島地震後も、そういった言説が散見されている。
 しかしながら、今回の地震における政府の初動対応の遅れや地震後の被災者への対応が不十分であるのは、上記のとおり、災害救助法や、防災基本計画によって定められた内容を実施していなかったことが原因である。すなわち、能登半島地震に対して効果的な対策を行うことは、現行の法律で十分可能であり、憲法改正による緊急事態条項の創設は不要である。上記のような言説は、法律による災害対策が不十分であったことを、あたかも憲法の不備であるかのように述べるものであって、到底許容できない。
 1月4日の年頭会見でも、岸田首相は「総裁任期中に(憲法)改正を実現したい思いに変わりはない」と憲法改正への意欲を述べた。自民党の改憲4項目には、緊急事態条項の創設が盛り込まれている。
 当部会は、能登半島地震への対応の遅れを憲法の不備によるものとし、災害を改憲の口実とするような言説には強く抗議し、政府に対して、現行の法律による災害対策の徹底を要求する。

4 脱原発政策への転換の要求
 また、能登半島地震の震源に近い北陸電力志賀原発では、想定以上の揺れを観測し、外部電源の一部喪失や、変圧器の配管の損傷、使用済み燃料プールの冷却ポンプの一時停止、核燃料プールの水漏れなど、さまざまな損傷や影響が報告された。今回の地震で、志賀原発北部の海岸線では、地面が4メートルも隆起するという地殻変動も生じ、福島第一原発事故と同様の過酷事故の発生は、紙一重で免れた。
 さらに、今回の地震では、住民の避難計画の実効性が厳しく問われた。能登半島北部では各地で道路が寸断され、海岸線の隆起により港に船が着けず、原発から5キロ圏内に居住する住民の「圏外避難」は困難であった。現状の原子力発電所の安全審査基準においては、避難計画の策定は審査対象とされていないが、万が一事故が起こった際に、住民を確実に、安全に避難させることは必須の条件であり、この条件を満たす避難計画の策定がなされていない以上原子力発電所の運転がなされてはならない。当部会は、原発の安全審査に「実効性のある避難計画」の策定がなされているかどうかも対象とすることを求める。
 能登半島地震は、地震・津波が頻発する日本において、原発を持つことの危険性を改めて突き付けたものである。
 当部会は、東日本大震災後も、脱原発政策を進めなかった日本国政府の政策を強く非難し、能登半島地震を契機として、脱原発へと政策転換することを強く求める。
2024年3月9日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 4 回 常 任 委 員 会
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