律家会弁護士学者合同部会
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高市総理大臣による「台湾有事=存立危機事態」答弁の撤回および
恒久平和主義の堅持を求めるとともに、中国政府に対し、
市民間の経済的・文化的交流を阻害することについての自制を求める決議
1 高市総理の「存立危機事態」答弁の内容
 高市総理大臣は、2025年11月7日の衆議院予算委員会における質疑で、台湾有事が「存立危機事態」になり得るケースである旨の答弁を行った。
 具体的には、立憲民主党の岡田克也衆院議員が、昨年の麻生太郎副総裁による「中国が台湾に侵攻した場合には存立危機事態と日本政府が判断する可能性が極めて高い」との発言などを例として、与党議員らが軽々しく存立危機事態になる可能性などということを述べていることは問題ではないかと質したのに対し、高市総理は、「例えば、台湾を完全に中国北京政府の支配下に置くようなことのためにどういう手段を使うか。(中略)それが戦艦を使って、そして武力の行使も伴うものであれば、これはどう考えても存立危機事態になり得るケースであると私は考えます。」「実際に武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高いというものでございます。」と答弁したというものである(以下、「高市答弁」という)。

2 高市答弁は政府の従来の答弁を踏み越えるものであること
 安保法制を構成する「武力攻撃事態等及び存立危機事態における我が国の平和と独立並びに国及び国民の安全の確保に関する法律」における「存立危機事態」とは、「我が国と密接な関係のある他国に対する武力攻撃が発生」し、かつ「これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある事態」と定義されているところ(同法2条4号)、従来の政府答弁は、「いかなる事態が存立危機事態に該当するかは、実際にその発生した事態の個別具体的な状況に即し、全ての情報を総合して判断しなければならない」という立場を堅持してきた。
 しかし、高市総理は、中国政府が台湾を支配下に置くために武力の行使をすれば「どう考えても存立危機事態になり得る」「実際に武力攻撃が発生したら、これは存立危機事態に当たる可能性が高い」と答弁したのである。これは、中国政府が台湾に武力行使をした場合に、日本政府が自衛隊を派遣して武力行使をする可能性が高いと述べたに等しいものである。
 そもそも、1972年の日中共同声明により、日本政府は中国政府の「台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部である」という立場を「十分理解し、尊重」すると明記しており、この対中政策の核心部分に基づけば、日本政府の従来の見解の延長線上では、中国政府による台湾に対する武力攻撃だけで、法律上「存立危機事態」を一般的に認定することは極めて困難なはずである。
 いかなる国も武力による問題解決をはかることは許されないことは言うまでもないが、従来の政府見解をいとも簡単に踏み越えて、台湾有事=存立危機事態に該当する可能性が高いとした高市答弁は、危険な失言であると言わざるを得ない。
 なお、高市答弁について、これは台湾有事において中国政府による米軍に対する武力攻撃が発生した場合について述べたものと解釈すべきであるという見解も一部にあるようだが、高市答弁はそのような限定をしていないし、仮にそのような解釈をとることができたとしても、個別具体的な状況を捨象して、台湾有事における存立危機事態の該当可能性を一般的に肯定した高市答弁が従来の政府答弁を逸脱していることに変わりはない。

3 日本国憲法前文および第9条の恒久平和主義の立場の堅持こそが必要である
 そもそも、2015年に成立した集団的自衛権の行使容認を含む安保法制自体は、戦後長年にわたって踏襲されてきた政府の憲法解釈に反し、日本国憲法前文及び第9条に定める恒久平和主義に反する憲法違反の法律である。
 高市答弁は、この安保法制の適用範囲が時の権力者によって恣意的に拡大解釈され、日本が武力紛争の当事者となる危険性を高めるものであることを示すものである。2015年の法案審議中、当部会を始め多くの法律家は政府による恣意的な拡大解釈に歯止めがかからないことを指摘してその成立に反対したが、高市答弁は、まさに当時の我々の危惧が現実化したものと言える。このような事態を招いた根源にある安保法制そのものの改定・廃止こそが議論されなければならない。
 高市答弁は、外交関係はもとより、日中間の様々な文化的交流の中断をもたらすまでに深刻な影響を与えており、日本および東アジアの平和と安全、日中間の経済的な相互互恵関係を脅かす外交的失態と言わざるを得ない。
 国内外の反応を受け、日本政府は、本年11月25日、高市答弁について、「いかなる事態が存立危機事態に該当するかについては、事態の個別具体的な状況に即して、政府がその持ち得る全ての情報を総合して客観的かつ合理的に判断することとなるものであり、御指摘の答弁においてもその趣旨を述べたものである」「このような政府の見解については、『完全に維持』しており、また、『見直しや再検討が必要』とは考えていない。」と、従来の政府見解に変更はない旨の答弁を閣議決定した。
 当該閣議決定は、高市答弁の軌道修正を図ろうとするものであると思われるが、そうであるならば、従来の政府見解を明らかに逸脱した高市答弁については潔く撤回した上で、日中間の緊張関係を解消し、正常な外交関係の回復と文化交流の促進をすべきである。
 また中国政府も、政治的な問題については政治的解決をはかるのが筋であって、政府間の緊張関係を理由として日中の市民間の経済的・文化的交流を阻害するような行動をとることは自制すべきである。
 当部会は、日本政府に対し、高市答弁の撤回および日本国憲法に基づく恒久平和主義の堅持を表明することを求めるとともに、中国政府に対し、日中の市民間の経済的・文化的交流を阻害することについての自制を求め、両政府が対話を通じて問題を解決することを求めるものである。
2025年12月6日
青年法律家協会弁護士学者合同部会
第 3 回 常 任 委 員 会
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